海から始まる。寒天の原料は、海藻。その海藻が、海を離れる。舟に乗る。馬に載る。内陸へ向かう。着いた先は、諏訪。海がない。なぜ、ここまで?
製法の時間を、少し戻す。1830年ごろ。角寒天のつくり方が、京都から諏訪へ伝わる。海藻も運ばれてくる。
諏訪で待っていたのは、冬だった。夜。強く冷える。凍る。昼。少し気温が上がる。ゆるむ。乾く。また、夜が来る。
天然角寒天は、この凍結と融解、乾燥を繰り返してできる。晴れる日が多い。雪や雨が少ない。空気が乾いている。諏訪の冬が、製造工程の中へ入っている。
次に、水田へ移る。秋まで米を育てた田。冬になると『寒天庭』になる。土から育てる場所が、空気へさらす場所へ変わる。
寒天を並べる。夜へ渡す。昼に受け取る。また夜へ。同じ場所で、時間だけが往復する。
春。水田は、また米を育てる場所へ戻る。寒天庭は消える。角寒天だけが、諏訪の冬を抱えて外へ出ていく。
海から山へ。京都から諏訪へ。水田から寒天庭へ。夜から昼へ。
原料の近くでつくるより、寒さの近くでつくる。角寒天は、ずいぶん遠回りして形になる。
✑ きのゆえ
