← STORIES
STORY 14

柿の葉寿司は包んだあとに待つことで味がなじむ。手を動かしていない時間も、料理の中では働いている。

夕方、包む。

酢飯に鯖。

柿の葉を折る。

重石をのせる。

はい、完成――

ではない。

ここから一晩。

・・・・・・待つだけ?

待つだけ。

奈良の柿の葉寿司は、海から離れた吉野へ鯖を運び、食べるための知恵として伝わってきた。塩をした鯖を山へ運び、酢飯にのせ、柿の葉で包む。

包んだ直後より、少し置いた方が味がなじむ。

鯖の塩気がごはんへ。

葉の香りも重なる。

人は何もしていないのに、料理の方は進んでいる。

柿の葉寿司を重石の下で一晩休ませる、ラフな水彩イラスト
包んで、重石をのせる。人が眠っているあいだも、味はゆっくり進んでいく。Illustration: YOMITABE

これ、ちょっと不思議だ。

冷蔵庫へ入れると「保存=止める」みたいな気持ちになる。でも昔の保存食は、止めるというより、ゆっくり変わっていく時間とうまく付き合っているように見える。

漬物。味噌。梅干し。パンの発酵。

そういえば、待つ料理ってけっこう多い。

そして待っているあいだ、人間は自由だ。

お風呂に入ってもいい。

本を読んでもいい。

寝てもいい。

むしろ寝た方がいい。

翌朝。

重石を外す。

葉をひらく。

昨日の夜より、ちゃんとおいしそうになっている。

一晩。

何もしなかった時間まで、料理だった。