夕方、包む。
酢飯に鯖。
柿の葉を折る。
重石をのせる。
はい、完成――
ではない。
ここから一晩。
・・・・・・待つだけ?
待つだけ。
奈良の柿の葉寿司は、海から離れた吉野へ鯖を運び、食べるための知恵として伝わってきた。塩をした鯖を山へ運び、酢飯にのせ、柿の葉で包む。
包んだ直後より、少し置いた方が味がなじむ。
鯖の塩気がごはんへ。
葉の香りも重なる。
人は何もしていないのに、料理の方は進んでいる。

これ、ちょっと不思議だ。
冷蔵庫へ入れると「保存=止める」みたいな気持ちになる。でも昔の保存食は、止めるというより、ゆっくり変わっていく時間とうまく付き合っているように見える。
漬物。味噌。梅干し。パンの発酵。
そういえば、待つ料理ってけっこう多い。
そして待っているあいだ、人間は自由だ。
お風呂に入ってもいい。
本を読んでもいい。
寝てもいい。
むしろ寝た方がいい。
翌朝。
重石を外す。
葉をひらく。
昨日の夜より、ちゃんとおいしそうになっている。
一晩。
何もしなかった時間まで、料理だった。