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STORY 35

醤油を搾った木桶は空なのか。桶から梁、土壁、土間へ疑問を脱線させ、道具がいつ『場所』になるのかを考える。

醤油を使い切った瓶は、空になる。

洗えば、もっと空になる。

では、醤油を搾ったあとの木桶は?

空。

……本当に?

小豆島のヤマロク醤油は、すべての醤油を杉の木桶で仕込む。大きいものは約6,000リットル。もろみを搾り出せば、目に見える中身はなくなる。

でも、杉の表面には乳酸菌や酵母菌などの微生物が住み着いている。

空の桶に、住人がいる。

内側に小さな微生物の気配が残る空の木桶を描いた、ラフな水彩イラスト
中身を搾り出しても、木の内側まで空になったわけではない。Illustration: YOMITABE

では、空き家では?

いや、次の仕込みが来るから、留守番中?

桶の話をしていたはずなのに、家の話になってきた。

しかも住人は、桶の中だけにいない。ヤマロクの説明では、百年以上前に建てられた蔵の梁、土壁、土間にも微生物が暮らしている。崩れた土壁も捨てず、新しい土と練り合わせて元へ戻すという。

壁を直す。

ただし、古い壁を少し混ぜる。

新築のように全部きれいにすると、困る住人がいるらしい。

桶が道具で、蔵はその置き場所。そう分ければ簡単だった。

でも菌から見れば、桶も梁も壁も床も、全部ひと続きの住まいかもしれない。

では、醤油をつくっているのは誰だろう。

人。菌。桶。壁。

……土間も?

話が広がりすぎたので、桶へ戻る。

木桶で醤油をつくり続けるには、次の桶をつくる人も必要になる。ヤマロクが2011年に始めた「木桶職人復活プロジェクト」は、新しい桶をつくる技術をつなぐ取り組みだ。古い住まいを守る話が、新しい住まいをつくる話につながった。

新品の桶。

まだ、この蔵の時間は入っていない。

そこへ仕込みを重ね、微生物が住み着く。

いつから、その桶は新品ではなくなるのだろう。

最初の醤油を入れた日?

最初の菌が住み着いた日?

醤油の話だったはずなのに、いま気になっているのは、道具が場所に変わる瞬間だ。

桶を空にしても、疑問だけ残った。

AFTER THE STORY / YOMITABE SHELF

記事の向こうで、見つけたもの。

蔵に住む時間を、一本の醤油からたどる。

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再仕込み醤油
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